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2021年5月13日更新 投稿者

計画をつくる 

自治体のアドバイザーなどを複数やっていると、4月にはいろいろな意味で

「計画づくり」 

が話題に上る。

私も、長い間、お役所勤めだったのだけど、郵政という一応経営体にいたこともあり、計画と言っても実際に業務運行とセットで「いわゆる絵に描いた餅」にならないようにするにはどうしたら良いのか、ということに気を配る25年だった。

民営化して、民間の経営者が増えたが、思ったよりも「絵に描いた餅」が好きな人が多いことに驚いた。

ということで、最近、アドバイスをしていて気づいたことをこの際、少しまとめておこうと思う。

 

1 第一の誤り(計画よりビジョンやWHYを)

計画を作ろうとするときによく陥りがちな誤りは、計画を作らなければいけないという事実と、それをどういうスケジュールでつくるのか、ということに大半の議論の時間が注がれることだ。

では、どのようにすれば目標を見失わずに計画を策定できるだろうか。

まずは、ビジョンを描く、ということだろう。


Arrowpointing – jp.freepik.com

 

「なぜ、何を実現したいのか」 

という根本を、しっかりビジョンとして描くことが重要だ。
そして、部下に「どういうビジョンが良いと思うか?」を考えさせることは、将来のマネジメント層を育成するという意味でとても重要だが、本来ビジョンは経験豊かなトップマネジメント層が自ら考えていなければいけない。

物事は、WHY→WHAT→HOW の順番で考えると整理される。
星野守弘氏の「クリエイティブ入門」サイモン・シネック氏の「WHYから始めよ!」あたりを読むとこのあたりは合点がいく。とても読みやすいのでおすすめだ。

特に、手段の目的化で怖いのは、人が手当てされれば全部やってくれるだろう、的な思考だ。

「アドバイザーがいるからやってくれるだろう」
「地域おこし協力隊がやるだろう」
「CDOがDXはやってくれるだろう」

みたいな話が出ていたら、要注意だ。

「やってくれる」前に、「何をやるか」を決めなければいけないし、「決めたら本当に自治体としてやる覚悟があるのか」がないと最終的には実現しない。

 「ビジョンとそれをやる覚悟」 

それが決まれば、ほぼ計画はできたに等しいのではないかな。

 

2 第二の誤り(縦割りよりは協働する組織体制を)

計画については、私は「誰が主体で動くのか」ということもとても大事だと思っている。

とはいえ、自治体のような縦割りではそれぞれのコミュニケーションが難しい。お役所仕事と言われる

「できるだけ自分の仕事は小さくしたい」
「でも、自分の仕事は他に部署にとやかく言われたくない」
「だからこそ、他の部署にもとやかく言わない(だから、こちらにも文句を言うな)」

という文化がはびこっているからだ。

なので、 一応、枕詞のように

「ではこの件は関連課と連携して・・」
「関連課と共有して・・」

という言葉が会議で乱舞することになる。

Macrovector – jp.freepik.com

以上で述べたような自治体の都市伝説ではなく、あるべき正しい自治体(大半はそうだと思っている)を前提に考えれば、私は、こういう手順ではないのかなと思っている。

 

  1. 主管課が現場主義・成果主義を踏まえて各所をリサーチし、原案を作る
    その過程で、関連課や市民、他の地域や組織、特に異なる文化を持つ地域や組織などをリサーチして情報を収集するのが得策。
    なぜなら、課題は、ギャップからしか見つからないからだ。
  2. この過程において、他の部署の課題と自らの部署の課題に、どのような相違点があるのかを見出すことが重要になる
    同じであればシナジーを出せる。異なっていれば、お互いの施策が足を引っ張り合うことになる。
    後者を見出し、止めるのではなく、課題解決のための第3の道を見出す作業が、「関連課との連携」 に相当する。

 

3 第三の誤り(PDCAとOODAの使い分け)

何かというとPDCAと言われる。でも、世の中はすでにOODA型の運営が求められている。

つくば市などから少しずつ言葉になってきたアジャイル開発的な市政運営はまさに後者のことを言っている。

PDCA :Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)
OODA :Observe(観察)・Orient(状況判断、方向づけ)・ Decide(意思決定)・Act(行動)

 

  1. PDCA の場合、Plan の前には、「過去の計画の評価反省」が欠かせない
    ほとんどの場合には、過去の計画が存在するので、この評価反省がないのはまず発射台ができていないことになる。
    だが、どういうわけか、評価反省が十分だったという例は自治体の場合に少ないという感じがする。
    その一因は、「評価する手段がそもそもビルトインされていない」とか、「行政が本来評価されるべきものが非常に見えにくい」ということも原因にある。そもそも見えやすいものであれば、行政がやらずに民間がやれば良いのだから。
  2. OODA の場合には、「まず観察から」始まる
    過去の事例があればPDCAになるのだろうけど、状況がどんどん変化し、新しい物事を進める場合には、この方式になる。
    この場合、いかにメタ認知、俯瞰的にかつスピード感を持って観察ができるかが重要になる。
    マネジメント層はもちろん、部下の皆さんが、リサーチ力、データ分析力をどの程度持っているのか(例:因果関係もないのに相関関係だけで因果を導くような、低レベルの統計分析知識で仕事をしていないか、などは要チェックである) を把握することも重要になる。

そして、この評価反省、情報収集、リサーチが不十分だと、それがそのまま現実感のなさとなって直接的に結果として現れることになってしまう。

Vectorjuice – jp.freepik.com

 

以上のどちらを選ぶかは、目的によって違うのだけれど、おかしなことになっている例は少なくなく、ちょっと考えるだけでもいろいろ思いつく。

    • 社会課題がわからないので、DXの議論だけが走る(手段の目的化
    • 有害鳥獣被害の議論をしているのに、周辺自治体と一体で実現していない。例えば、〇〇 市だけが被害対策をしたら周辺自治体の被害が拡大する、駅前が活性化したら周辺エリアが地盤沈下する、というようなことが発生する(部分最適
    • 産業実態を踏まえない産業政策が行われる。例えばDX戦略推進のため、と会議をしても、実態として大半の中小企業はDXではなく、デジタイゼーションどころか、まずは経営手法の理解、それを支援する財務ソフトの活用から始めないといけないくらいのレベルではないかということも十分考えられる(リサーチ不足
    • 人口問題と一括して捉えてしまい、人員、人材、人財と言った区分けがないために、実現不可能な政策が実行される(目的が不明確

 

4 ロジックモデル

今まで、3つの誤りやすいポイントを話してきた。

最近、ロジックモデルを書く、ということを改めてやる機会が増えて、これを政策を考えるときにもっと活用したら良いのではないかと考えるようになった。
政策には1で述べたように「ビジョン」に基づく「達成したい効果(アウトカム)」があるはずだ。

そのアウトカムは、

インプット→アクティビティ→アウトプット→アウトカム 

を経ることで達成される。その上で、各計画のアウトカムを集大成をすると、ビジョンが達成されるからだ。

このアウトカムを生み出すには、一体、何をアウトプットすればいいのか、そのためには、どういうアクティビティーをやるのか。
考えてみれば、この流れを左から順に右に動かしていくことが、WHY→WHAT→HOWになっていることがわかる。

 

5 対処療法ではなく体質改善を

アドバイスをしていてよく目にするのは、短期的な課題と中長期的な課題を区分して議論していない現場である。

もう少しいえば、前者だけ議論して、後者の議論は放置されるということだ。世の中でいえば「対処療法」という。例えば、以下のような事例である。

  • 人口減少でバス路線が廃止される。これでは生活の足がなくなるのでなんとか対処したいという短期的課題を必死に議論しつつ、中長期的な公共交通機関のあり方はあまり議論されない。本来、計画というのは、後者のためのものではないだろうか?
  • コロナにおける産業支援は、短期的な収益支援策でありこれはこれで重要だが、Society5.0の世界では単純労働はAIやICTに大きく変化すると言われている。このために産業構造転換をする、という中長期的な課題はあまり議論されていない。ほとんどの製造業はロボティクスに変化するのではないか。そのとき、中小企業はどう生き抜くことになるのか。。。

個人的には、短期的なものにはOODA的な思考を、中長期的なものにはPDCA的な思考がフィットするようにも思える。

とはいえ、PDCAであったとしても、現状リサーチは非常に重要なので、OODA的なスキルを自治体職員が持っている、ということがとても重要な時代になってきているのではないか、と昨今感じている。

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