2017年5月23日更新
【座談会】都市部における地域活性化
地域活性化というと、過疎化の進んだ田舎をイメージする方が多いのではないだろうか。そういう中、日本創生会議が「消滅可能性都市」として、東京都23区の豊島区が取り上げられ、衝撃が走った。
今回は、当会の会員であり、港北区の商業施設「トレッサ横浜」に併設された郵便局の局長として地域の活性化に取り組まれている野本美幸さんをお招きし、「都市部における地域活性化」をテーマに、今後の進むべき道、を探ってみることとした。
野本:野本 美幸さん(トレッサ横浜郵便 局長、一般社団法人Community Future Design 会員)
森:森 幸久(有限会社ハビタス 代表取締役、一般社団法人Community Future Design 事務局長)
澤:澤 尚幸(一般社団法人Community Future Design 代表理事)
都市部の実態は?
澤:まずは、野本さんが関わってこられた地域や郵便局について、少し、お話しをいただければと思いますが。
野本:現在は、港北区の商業施設「トレッサ横浜」に併設されている、トレッサ横浜郵便局で勤務していますが、前任は、神奈川宮前郵便局に勤務していました。
前任局は、横浜駅から徒歩圏内。宮前の名前がある通り、洲崎大神という800年の歴史がある大きな神社があります。旧東海道が通り、商店街も賑わっていましたが、相続の関係か、現在は駐車場かマンションばかり。一部の高齢者と、ワンルームマンションの単身者が住人で、高齢者の方々とは顔見知りですね。お祭りの2日間だけは、多くの人々で賑わいます。見た目は、都会ですが、実態は過疎地と似たような状態かもしれません。
一方、トレッサ横浜郵便局には、大きな商業施設ゆえ、遠方からのお客さまが多く来られます。どうしても、地域との距離は少し遠くなってしまいます。
魅力はストーリー?
野本:駐車場とマンション。何もないところで地域の魅力を発信するにはどうしたらよいかと、よく悩んでいました。
森:先日、台湾に行ったのだけど、カフェがすごく増えているんですよね。アートとも融合してすごくお洒落なカフェが増えている。いわゆるリノベカフェなのだけど、そんな展開は考えられないでしょうか?
澤:世田谷区の経堂も普通の商店街が、リノベしたカフェや、ドイツの木のおもちゃの専門店、ちょっとお洒落なアンティークのショップなどに変貌して、面白い町になってきています。日大や東京農大があって、学生街のイメージもあったけど、学生が減る中で、違うカルチャー、ちょっと古いけどLOHASとか、最近ならソーシャルといった雰囲気が芽生えてきている。誰かがそういうきっかけを作り、その仲間が広がってきている感じがします。
個性のない都会でも、ストーリーを紡ぎ出してみると変わります。
森:元のストーリーがあるといいですね。先ほどの台湾の話なのですけど、もともと、金物屋さんだったり、自転車屋さんだったりしたところに、それにまつわるカフェが出来ていたりします。例えば、古い自転車が飾ってあったり、タイヤで椅子が出来ていたりとか、そんな感じでリノベカフェが作られている。
澤:森さんは、Web制作会社を経営されているわけですけど、そういう観点からは、何か気づくことはないですか?
森:地方活性化とか地方創生がブームになって、自治体のホームページをざっと見て、やはり、個性がないというか、まだまだ改善の余地があるな、と思います。ある意味、どこでも同じで、ストーリーがない。Webを作る上で大切なのは、その組織が持つ思い、それを伝えるためのストーリーだと常々思っていますけど。
澤:なるほど、ストーリー。田舎だと個性がわかりやすい。例えば、葉山なら海があるとか、でも都会には個性がない。でも、宮前は都市部だけど、800年の歴史がある神社があり、旧東海道が通っていた、という事実があるわけだから、何かそこにストーリーを作ることができれば、復活できそうな気がしますね。
こういうお話をする時に、例としてお話しをするのですが、石舞台古墳で有名な、奈良県明日香村。飛鳥時代のものはほぼ残っていないし、石ころだけです(笑)。しかし、ストーリーがあるから、それを想像して感じるために、皆さん足を運んでくれている。私も大好きな土地です。
野本:地元の方の理解を得ることが難しいということも感じます。子どもの世代は、実家のお店を守るとか、地域を活性化したい、といった意識がほとんどありません。横浜駅から徒歩7、8分という地の利を活かしてマンションか駐車場にしているというのが実態なんです。
澤:駅から近いところはそんな印象を受けますね。結局、文化を作るのはコミュニティーですから、そこの住人ですね。駐車場やマンションのオーナーで、そこに住んでいない人々ではないですよ。
野本:都市部でも、例えば、月島といえばもんじゃとか、イメージありますよね。
澤:そう。そこに仕事をしている人、住んでいる人がいますよね。一方で、豊洲はそこで全てが揃うという利便性があるけど、なんだかプラスチックみたいな気がするのですよ。全てが予想できてしまうというか。闇の部分がないというか。
森:「闇がない」…それは良く分かる(笑)
人々が求めるのは利便性で良いのか?
野本:以前、役所の方とお話しする機会があってお聞きしたのですが、地元の方々から地域内にスーパーをもうひとつ作って欲しいとの要望があるのだとか…。私の勤めているトレッサ横浜郵便局のある「トレッサ横浜」には大型スーパーがあります。にもかかわらず、まだスーパーを作れと言っている。あくなき欲求というか(笑)
森:できるだけ近いところに便利さを求めるということなのでしょうね。コンビニ感覚というか。コンビニが自宅の冷蔵庫代りになっている利便性は何よりも得難いものがある(笑)
澤:郵便局もコンビニのようなものと常々考えているのだけど、例えば、目の前の愛想の悪い郵便局と、5分先の笑顔の素晴らしい郵便局があったとしたら?
森:余裕のあるなしはあるのでしょうが、急いでいれば目の前でしょうね(笑)
澤:私もそうですね。
先日、友人から、志賀内泰弘さんの『「いいこと」を引き寄せるギブ&ギブの法則』という本をいただきました。
「量販店で100円の物を買ったとする、それはモノを100円で買ったに過ぎない。だけど近くお店で同じものを120円で買ったとすれば、地域の人々相互の信頼があれば、120円は、また、地域のどこかのお店で使われ、地域内で順番にお金が循環するので、最後は自分に戻ってくる。だから、ギブをし続けなさい。20円は信頼を買っているのだ、という説明です。」
森:大切なのは、地域の中における人間関係づくり・信頼を売る仕組み。
澤:おそらく、郵便局はそこまで近い存在になっていないのでしょうね。コンビニには(客と店員との)人間関係はほとんど無い。郵便局も昔のようにしょっちゅう行っていたら、愛想の良い方に行くと思うのです。人間関係の密度が減っているとよくいわれますよね。昔の商店街だと、毎日行く八百屋さん、毎日行く肉屋さんがあったので人間関係があったけど、今はそれが薄れている。
森:都会は人と話をしたくない人が多いからね。そもそも。だから世話焼きもいない。
澤:都会は住環境さえ良ければいいということになってしまうわけ。駅から近い、スーパーが近い、病院がある、などなど。利便性が優先される。
森:分譲マンションのパンフレットとかそういう住環境の利便性を謳ってるもんね。
野本:トレッサ横浜郵便局では「買い物ついで!」「お食事ついで!」のお客さまのご利用がほとんどです。大型商業施設でまさに便利さの追及ですね。
ただ、近隣にも古くから郵便局が2つあるのですが、どちらの郵便局も局長さんが地域の役員等をやっていて地元の為に汗水流していて、真に地元の人達から愛されています。
トレッサ横浜郵便局を支払いでご利用のお客さまに営業しても「貯金は○○郵便局を利用しているからごめんね。」と断られる場面も多々あるのも現状ですね。
澤:昔からのお客さまとの間では、安売り競争とか金利競争とは別の、ギブ&ギブが成り立っているのでしょうね。そのあたりに解決のヒントがあるかもしれません。
周りを巻き込む・人をつなぐ
澤:地元の人達だけでなく、そこに来た外の人を巻き込んでワイワイやることでその地域を面白くしている例もある。これは田舎も同じ構図。
野本:そういう取り組みが出来ない自治体は破綻してしまうケースも出てきそうですね。
澤:田舎でも問題になっているのが、高校の廃校。他の高校に行けば良い、という単純な話ととらえがちですが、将来どうしていけば良いか相談する相手が地元にいなくなるというのは大きな問題です。先日、鹿児島県の長島町に訪問しましたが、夏に東京から大学生に来てもらい、子供たちを集めて勉強会をやっているそうです。そこで、将来の進路などを相談できる。
こういう問題は田舎だけでなく、都会でも起こりうるということだと思うのですよね。
野本:なるほど
森:都会の場合、高学歴・高収入層は、限られた人だけのコミュニティとなる傾向にあり、低収入層の気持ちが全然わからないという格差が起こっている。近い将来同じ地域に住んでいるのに、全く接点がない。会話することもすれ違うこともないとか…そんなことがね。あり得るのかな?
野本:かなりそれは進行しているように思いますね。
澤:地方だと、高校が1つであれば、いろいろな子供たちがそこに集まってくる。一方で、都会だと、偏差値その他で、細かく分類されてしまう。下手をすると、幼稚園から大学まで同じメンバーなんてことが有り得る。だから、何か違うコミュニケーションの場が必要なのは、都会でも同じですね。
一方で、先ほどの、都会から大学生を田舎に呼ぶというアイデア。都会の人が、田舎という知らない世界を知る、という経験を提供しているともいえます。なかには、そういう経験から、Iターンをする人々が出てきていますね。
地元を使い切る
澤:地方でも、都会よりは濃密なコミュニケーションがあるとは言え、昔よりは希薄になっていると感じます。例えば両親が忙しい時は、祖父祖母が面倒を見るとか、近所の人に助けてもらいうといったことは、地方であってもほとんど見られなくなってきている。
でも、それを繋ぐ人や場所があれば別なのではないかと思う。現にそのようなコミュニティに助けられて大成した人もいるわけで、要は人の問題。
そういえば、野本さんは、近くの幼稚園の子供達や、そのご家族との接点を大事にされていましたよね?。私がお伺いした時に、年末でしたか、幼稚園児が大挙して郵便局に、年賀状を投函にやってきたのを覚えています。
野本:はい。やはり、お会いできる人は大事にしようと一軒一軒を回りました。PTAの皆さんにもご理解いただけるようにお話に伺ったことも何回もあります。
澤:それが、地域をつなぐことになっていたのではないですか?
森:最近では、学校が休みになると(給食がないので)体重を減らす子どももいるとか。このような問題を解決するため、図書館でおにぎりを振舞ったりするところもあると聞きました。郵便局もそのような駆け込み寺的な存在を目指してみるのも良いのではないかなあ。
澤:島根県雲南市は、高齢化・過疎化に対処するために、「地域自主組織」というものを立ち上げています。「地域自主組織」が、学童クラブを運営したり、地域課題を解決する役割を担っています。ある意味、助け合いを組織化して、コミュニティーを再生しているわけですね。人が減る中で、そうせざるを得ない、というわけです。
地域の課題を解決できる存在が求められる時代に
澤:都市部は田舎以上にコミュニティーが失われている。一方で、課題は、遅ればせながらやってくる。そういう意味で、早晩、地域の課題を解決できる存在が必要になる。
野本:都市部の本質的な地域課題って何なのでしょうね?
澤:さきほど格差の話が出だしたけれど、例えば勉強する環境にないということであれば、ネット環境だけ整えてあげれば、勉強する方法は作ってあげることが出来る世の中になったと思うのです。まさにネット寺子屋ですね。ただ、お腹がすいたら勉強も出来ないので、食の問題はなんとかしないといけないかもしれない。地元が地域の子供を育てる仕組み、そのための資金を集める仕組みは、先ほどお話しした、長島町の「ブリ奨学金」など、いろいろアイデアが出始めています。
こうした形を作れる人、作れる団体が必要になるんじゃないでしょうか?
その地域だけで唸っていてはできない。他の地域のアイデアや、人なども巻き込んで形を作れる人々が必要ですね。
野本:自分自身、苦学生だったので、学校の先生たちに助けられて大学に行くことが出来たと感謝しています。それにより人生の幅が広がったと思っています。
郵便局が、そういうこうした地域の課題を解決できる存在になれたら良いと思います。
トレッサ横浜郵便局(日本郵政のホームページ)