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2020年11月6日更新 投稿者

林業を考える(第2回)

Salon de ∫u kenの4回目の古川さんのお話しから感じたことの2回目です。

前回は、資本主義の「秩序」と言うものが、世の中の見え方を変えてしまったと言うことについてお話しをしてみました。

自分の家に近いほど現実より大きく見え、自分の家から遠いものほど現実よりも小さく見える
今から近いものほど現実より大きく見え、今から遠いものほど現実よりも小さく見える

そう言うお話しでした。

この歪みを元に戻すには、いくつかの考え方があるように思います。

古川さんのお話しでは、森林を守っていくためには、現在、原木市場で一本10000円くらいで売買されているものが、20000円くらいになることが必要だ、と言うことでした。
つまり10000円をどのように埋めるか、と言うことです。

日本ではこの手の話になると、
「国策で補助すべきだ!」
と言うのが一番出てきそうな答えです。
ですが、この手の方法の問題の一つは、本質的な問題が見えなくなってしまうと言うことです。

具体的に言えば、

  • 森が持続的である必要があるのかどうかの理解がそもそも進まない
  • そもそも産業としては(資本主義的には)成立していないのですから、将来性がない事業になる。つまりは、担い手が生まれる可能性が非常に薄い
  • 本質的な問題だったはずの、「資本主義と言う仕組みの課題」が見えない
  • なぜ、10000円と言う価格になってしまうのかと言った市場の問題も見えなくなる

と言った数々の課題が、表面化しないことになります。
(予算化する中で、国会では議論になるのだと思いますが。。。)
でも、コメ議論を含めて、即効性があるのか、どうもこういう話になりがちです。
私は森を歩きます。
プロローグにそのあたりを詳しく書かせていただきました。

森の荒廃
そして、それから生まれるであろう、多くの災害
そして、そのために必要となる、多大な砂防ダムなどの土木工事
そして、結果として生まれる多くの人工的な構造物の持続的な景観破壊
それを見てきました。

ノスタルジックにこう言うことを語りたいと言うことではありません。

安全を標榜したこうした土木工事は、
しっかりとした因果関係をもちろん調べるべきでしょうけれど
そもそも、森が荒廃することがなければやらなくても良い「投資」だったのではないか、
と言うことに気付きます。
(あるいは、やらなくても良い「投資」もあったのではないか、と言う方が正確でしょうか)

金と言う「秩序」でできている資本主義ですが、実は、全てを評価できているわけではない、と言うことがこれでわかります。
具体的に言えば、
木材の建材として価値は見えていても
森が守っているはずの安全は、「空気のようなもの」で、それがなくなったら「安全という名目で多大なコストがかかっているのではないか」
ということになります。

この一部しか見ない、というのも実は資本主義の特徴です。
物事を数式で表現すれば、当然、全ての要素を入れ混むことはできません。考えてみれば当然のことです。

金融工学の世界は、確率的な動きが正しいということが大前提の議論です。
確率的ということは「そうならないことだってある」ということです。
だから、当然に金融危機は発生します。

原発問題も同じです。
原発事故は確率的に限りなく0に近くあるように準備をしていた、に過ぎません。
(ですが、原発はもうやめられないはずです。)

こういう「全てが見えるわけがないのに」、確率的に限りなく0に近い、ということで、「そこを見ないことにして、全てを見たように見せかける」ということが、実にたくさん行われている、ということは、扱いやすさを有無一方で、大事なものを見えなくする危うさが含まれています。

大事なことは、人々が「この危うさを感じ取れるヒトになること」だ、というのが林業のお話しを聞いていて感じたことでした。

私は、吉野杉で家を建てました。

古川さんから「国産材の吉野杉の無垢材を使いましょう」というご提案をいただいたことがスタートになりました。
先に述べたように、森の荒廃を止めるということが日本にとって大切だろう、という気持ちもありました。
が、
一番大きかったのは、吉野杉にしたところで、建築コスト全体はほとんど増えない、というほどに、木材価格というのは、建築の中の一部に過ぎない、つまりは、
「さほど、高くない」
という現実を知ったことでした。
さらに、
「そもそも、集成材の方が、無垢材よりも扱いやすい」
「どうしても、無垢材は曲がりや、割れが起きるので、建主からのクレームが出易い」
など、工務店が二の足を踏む
という問題が現実のものとしてある、ということを知ったことでした。

こうした中でわかることは、
「情報をちゃんと伝えるということ」
の重要性です。

資本主義の「秩序」は成長という意味では、非常に強力な手法でもあります。
そして、どちらかというと、「一部だけにフォーカスしてしまう」という危うさをはらみます。
それを是正していくために、歪んだ見え方を修正するために、
情報が正しく伝えられていること
が実は、非常にこれからの世の中には大切なのではないか、ということは、林業を考えることは教えてくれます。

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