2022年10月11日更新 投稿者 CFD
澤のお仕事図鑑【入門編】
代表・澤とFacebookで繋がっている方ならどなたでも、澤が日々、東に西に、北に南に、日本中を駆け巡っていることをよくご存じだと思います。そして、アップされる写真の数々も目にされているでしょう。
私は、行く先々で美味しそうなご当地グルメに舌鼓を打っている様子が、どうしても目につきます(笑)
そこで抑えきれずに「いいですね。美味しそうですね。」とコメントしてしまうと、大抵、返ってくる言葉がこれです。
「いや、でも、仕事ですから」
さて。これは納得できる返答なのでしょうか。
澤さんて、何やってるの?いろんなところ行って、美味しいもの食べてるだけなんじゃないの?
という疑問の声が全国から聞こえてくるような気がするオバチャン事務員です(私だけではないはずです)。
そこで、この、ふとした時に浮かんでしまう「本当に仕事なのか?」という疑問に答えるべく、折に触れ「今、何やってるんですか?」というインタビューをしてみようと思い立ちました。
本日は記念すべき第1回インタビューの模様をお届けいたします。オバチャンの切り口で解剖する、澤さんのお仕事図鑑になるとよいなと思っています。
本日はよろしくお願いいたします。まずは、初回ですので、「今何やってるんですか?」のさらに前段階となる「澤さんて日々忙しそうですけれど、そもそもどういうお仕事してるんですか?」というところからお話をお伺いしたいと思います。
よろしくお願いします。全国で色々な方とお会いしていますが、「澤さんに来てもらえてよかった」とか、「澤さんのアドバイスが役に立った」などと言っていただけるのは大変嬉しいのですが、では自分が実際に「どのように」役に立てているのか、自分は「何ができる人なのか」を端的に説明するのはとても難しく感じているので、この機会に言語化・整理できたらいいなと思っています。
澤さんのお仕事には大きく「まちづくり・コミュニティづくり」に係るものと「教育」に係るものの2本の柱があるという認識です。全国各地の自治体の方と関わっていらっしゃると思いますが、その中でお話いただける事例はありますか?
それでは福島県西会津町での取り組みについてお話しましょう。
西会津町は福島県の一番西側に位置する、人口約6000人の、日本百名山の飯豊山の登山口もある風光明媚な町です。
2017年に、西会津町にあるアーティスト・イン・レジデンス、西会津国際芸術村のディレクターの矢部佳宏さんに、奥会津のイベントで出会いました。矢部さんの活動もあって、西会津町には面白い人々が集まり始めていました。矢部さんの西会津町に一度来て欲しいという希望と、ちょっと面白いことになるかもしれない、と思う自分の気持ちがつながり、「一度、西会津町に伺いますよ」とお話しして、町長にお会いさせていただくことになりました。これが、西会津町とのご縁のきっかけでした。
西会津町は、高齢者の平均寿命が短いという課題への対応として、「100歳への挑戦」というプロジェクトに取り組んでいました。私が関わった頃は、町長から、今度は逆に西会津の未来を担う子ども達を育成していくことが大事だという視点で「0歳の挑戦」というプロジェクトを立ち上げたいのだ、という強い意志を伺いました。
そこで、最初の2年間は学校教育改革のお手伝いをしました。その過程で「子どもたちは、大人たちの行動から学びます」という私の考えを提示していたところ、2019年からは、町の総合計画の実施計画を進めていく住民組織のあり方を考えるプロジェクトのサポートを依頼されました。
折しも、子どもの主体的な学びが語られていた時期、本来大人が持っているはずの主体性を紡ぎ出すことはできないだろうか、と考えだしたのがこの頃でした。
この一連の活動の推移から、私の仕事への考え方や進め方の一部をご説明したいと思います。
まちづくり計画は、町役場が作るものではない。現場が作るのだ。
その頃、小規模多機能自治という構想がムーブメントになってきていました。これは、なんでもかんでも行政にお願いして「やってもらう」という考え方からの脱却を目指す動きです。
その筆頭にあったのが、島根県雲南市の取り組みです。
少子高齢化そして過疎化が進む中、行政の負担ばかり増やしていくのでは、人的リソースも財政も圧迫されていずれ破綻してしまい、地域活動が回らなくなってしまうだろうという懸念を持つ雲南市では、「行政ではなく、地域の人が、地域のことを自分でやっていこう」という取り組みを始めました。その結果、地域の人たちを巻き込んだ活動が沸き起こり、大きな成果を生んだのです。
西会津町の総合計画実施のための住民組織を作る、という話を聞いた時に、まず私の頭に浮かんだのがこの事例でした。
西会津町も、高齢化・過疎化への対応は深刻な課題です。ただ、その解決を、行政に「お願いしてやってもらう」だけでは、行政の財政・人材にも限りがあるため、いずれ破綻してしまうことが容易に想像できます。
雲南市も、当初は「行政の仕事を住民がなぜやらなければいけないのか」という不満もあったようですが、地域毎の毎年の活動の成果を発表する中で、自然に「自らの地域をよくしたい」という意識が生まれて活性化してきていると聞いていました。
西会津町の地域の皆さんにも、地域の課題解決を「ジブンゴト」にしてもらいたい。
本来、まちづくりは、町役場が行うものではない。主体となる地域の方が作り、それを役場が支援するものである。それにより、地域の方にも当事者意識が生まれてくるのだと私は思っています。
西会津町には、地域の住民が資源やお金を出し合って昭和13年に作り上げた、旧尾野本小学校の木造講堂があります。こんなことができた地域なら、地域で主体的に動ける人々が隠れているに違いないと思いました。
こうして私は「地域の方が参加できる仕組みを作ろう」と提案しました。
アンテナを張り巡らせて、全国を駆け回っている澤さんだからこそ、そういった他地域での事例が目に、耳に、入って蓄積され、地域の課題解決を考えるときのよいヒントとして引き出すことができるのですね。それは澤さんの大きな強みのように思えます。(伊達に全国飛び回っているわけではないですね)
不作為の罪
私は、常に何かにチャレンジすることがとても大切だと考えています。それで、物事を変えないことが安全だという根拠で「不作為」に終わらせてしまうことは罪だ、という意味で、「不作為の罪」という言葉を常々使っています。
郵政省勤めの頃から、「去年こうしていたから、今年もこうします」という言葉を聞くと、「去年こうしていたから、今年も変えない、という理由はなぜか教えてください」と聞いていたものでした。
だってそうでしょう?変えたら、去年よりもっと良くなるかもしれないんですから。変えない方が昨年よりも良くなるなら、その理由を聞きたくなりますよね。本来チャレンジしてみなかったら、良いか悪いかもわからないんですから。
つまり、常に、現状に課題はないのかを問いかける、それについて、課題解決となるようなチャレンジができるのかどうかを考える、この思考と行動のチャレンジを繰り返すことが大切だと思っているのです。
しかし、たった一人の力では、チャレンジしようとしても出来ることは限られます。では、どうやったら、自分だけではなく、周りも巻き込んでチャレンジすることが可能になるでしょうか。
少し考えれば誰でもわかることだと思うのですが、私は、相手に動いてもらいたいと思ったら、相手が「やりたい」と思っていることをやっていただく、それが答えだと考えています。誰かに押し付けられただけのアイディアでは、本当の意味で、人の「本当にやりたいという気持ち」を動かすことはできないのです。
まちをつくる主体は行政ではなく地域の方々に担っていただかないといけない。そして地域の方々に動いていただくためには、その方々それぞれの「自分が本当にやりたいこと」を洗い出して、ジブンゴトとして主体性を発揮していただくことを目指す、ということですね。
はい。その通りです。そこで、2019年から毎月、地域のいろいろな団体に順番に集まっていただき、西会津町にはどんな方々がいらっしゃり、どんな考えをお持ちなのかを知ることに努めました。山登りの会の方々、お母さんの会の方々、などなど、老若男女問わず、色々な方とお話させていただきました。
その中で、主体性を発揮されている町民の方には役場の方々とも連携してお声がけし、また、やりたいと思っている方に自主的に参加いただけるように公募枠も作り、2020年に「協働のまちづくり推進委員会」を結成しました。
そうして迎えた第1回の委員会は、20年後、30年度の西会津町の人口などをお示しして、まず未来をイメージしてもらいました。
行政だけでやっていくことは難しい、若い人だけで町を維持することもできない、町民みんなが動いていかないとまちは続かないんだ、そんなことをまず理解してもらいました。
その上で、メンバーそれぞれの「自分がやりたいこと」を引き出す取り組みを行いました。偏愛マップ、ストーリーテリングなどの手法を使いましたが、皆さんの話が盛り上がりすぎて時間内に収まらなかったことを覚えています(笑)。
色んな話が出てくるのですよ。「女性がちょっと子育てを離れて活動する時間を作ってあげたいので、一時預かりの場所を作りたい(行政に作ってくれ!という姿勢ではないことが素晴らしいと思いました)」、「蕎麦打ちが好きだし、日々の気温や湿度でちょっと変えて美味しい蕎麦を打つのが楽しい。皆さんに食べてもらいたいけれど、毎日打って店を経営するのは無理、何かやれる方法があったらぜひやりたい」などなど。
こうして各自の「やりたいこと」がわかったら、第2回目の委員会では、「やりたいこと」が似ている人同士でグループを作り、話し合いをさらに深めていただきました。
西会津町の面白い人、面白いこと、綺麗な景色などを、ぜひマップにしてみたい、そういう意見が委員の方から提案されたのも、この時です。このマップのワークショップも大変に盛り上がりました。
色々な意見が出る中で良い意味での化学反応が起こって、地元の人は価値だと思っていないことが、地域外の人からみたら大きな魅力を持つものであることに気づいたり、自然・遺産・人材など、多様なカテゴリーで地域の魅力を細分化していく動きに繋がっていったり。話が多様化・そして細分化・深化していくにつれて、メンバーの熱量もどんどん高まっていくという、その場にいるだけでワクワクが沸き起こってくる感覚を覚えています。
このワクワクする感覚が、チャレンジにつながる大事な要素だと思っています。
自分たちの興味のあるテーマを持ち寄って、定期的なディスカッションを重ねながら、町民の皆さんの提案で深掘りすることにより、自分たちこそがまちづくりの当事者だ、という意識が高まっていったのですね。
消費されないコンテンツ
そして翌年の2021年秋に、「協働のまちづくり推進委員会」に加え、町民主体の「中心エリア整備構想・まちづくりデザイン会議」、町役場の若手職員で構成される「若手職員政策立案研修」の3つのワークショップによる、合同発表会を行いました。
ここで、西会津町議会議員や役場の幹部の方々にも見守られながら、町長に対し、まちづくりに関する自分たちからの、自分たちならではの提案を行ったのです。「行政にお願いしたい」という言葉が一度も聞かれないプレゼンとなりました。(※)
そして、提案を受けた町長からは、「トライアルアンドエラーでどんどんやっていただきたい!」という力強いお言葉をいただき、町民の方々からの提案に予算を付けてサポートするという約束をいただきました。
町民がやりたいことを考え、提案し、役場が町民のやりたいことを認めてサポートする。
これが、長期的に持続可能なまちづくりの基本の形だと私は思っています。
自治体の長が、住民受けする、耳障りのいいことばかり口にして、一過性の大きな企画を打ち上げ、その瞬間は派手な花火が上がって目を引くけれども、そのあとが続かずに終わってしまう、よくあるそんな現象を私は消費されるコンテンツと呼んでいます。
私が目指したいのはその反対。
面倒くさくて、地味で、周りからすぐには評価されないことでも、コツコツ続けること、続ける仕組みを作ること。目立たないけれど未来にとって重要なことを着実にやっていく。長期的にしたたかにやっていくことを重視したい。
これを私は消費されないコンテンツを作ることと呼んでいます。
日本各地に、消費されないコンテンツを増やしていきたい。
これが私のすべての仕事の根底に横たわる信念です。
まずは西会津町の取り組みでその実現の様子を目にすることができ、とても幸せに思っています。
既成のやり方を、批判的思考で再考して改善のためのチャレンジをする。長期的目線にたって、泥臭い、面倒くさい仕事をコツコツやっていく。非常に大切なことだとは理解できますが、抵抗勢力があることも容易に想像できますし、周囲を巻き込みながら実践するには根気が必要ですね。課題に感じていらっしゃることはありますか。
澤がいるからできる、から、澤がいなくてもできる、へ
そうですね。まだまだ道半ばなところもありますが、西会津町の方々と協働してきて、私自身が手をだしてファシリテーションすれば、集まってくださる方々と一緒に動かしていける、ということはわかりました。
今は、そこから一歩進んで、私がいなくても、地域の方のやりたいことを引き出し、まちづくりに繋げられる持続的な仕組みを構築することが大きなテーマだと思っています。
具体的には、地域の人材がこうした主体的な行動をドライブすることが自然にできる取り組みへのシフトです。
まずは、役場が地域の方々のまちづくりを適切にかつ持続的にサポートするという視点で、複数の役場職員の方にプロジェクトマネージャーとして活動していただき、私が定期的にプロジェクトの進行についてアドバイスをする、という仕組みを作っています。
ここで「適切に」という表現を使うと、旧来の日本社会では「失敗してはいけない」と捉えられてしまうことが多いように感じるのですが、私は「失敗してもチャレンジしたほうがいい」と考えています。失敗したら、「この方法ではダメだった。だから、次はやらなければいい。」ということがわかるからです。これがわかったことは成功です。つまり、失敗する可能性も見越しながらの政策立案能力が必要とされます。
しかし、プロジェクトマネージャーを引き受ける立場にある役場の行政職員の方々には、従来のセクショナリズム意識や上下の硬直的な意思伝達体制から抜け出しにくい一面があり、また「失敗」についても否定的な考え方が根強いように感じています。
そこで、今年度は行政職員の方々に政策立案の実力をつけていただくための、自主的な研修にも力を入れ始めました。西会津町だけではなく、会津地域全体に対象を広げて、このテーマに前向きに取り組んでいたける行政職員の方々と、月1回のペースで政策立案の研修を行っています。
研修の内容は、協働のまちづくり推進委員会立ち上げのときに地域の方々と行ったことと同じスキームです。まずは行政職員の皆さんが、何に興味があるのか、どのような課題意識を持っているのか、共有していただきました。自らがやりたいことじゃないと興味が湧きませんから。
今は、出てきたテーマを政策的にどう深掘りして、最終的に自分の興味の実現につなげていくか、についてのワークショップを実施しています。
西会津町の地域の方々の当事者意識醸成に加えて、それをサポートする行政職員の方々の底上げに取り掛かっていらっしゃるということで、最終段階、第三フェーズに入ったという表現が合いそうですね。これからどんな新しい化学反応が起こるのか、楽しみです。
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以上、第1回インタビューでした。澤さん、強い信念のもとに、ちゃんとお仕事されているようだということが理解いただけたのではないかと考えております。
澤のお仕事図鑑、引き続き、レポートさせていただく予定です。どうぞお楽しみに。