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2021年1月24日更新 投稿者

伊藤由佳理著「美しい数学入門」を読んで

数学のことを直接書くことはほぼないけれど、今日は少しだけ書いてみようと思った。

東大IPMUの伊藤由佳理教授のお話をお聞きしたのは、2019年10月だから、すでに1年半以上前になる。
東大柏のオープンキャンパスで「美しい数学の世界」というプログラムがあり、そこでのご講演を聞いて、その後、少し2人でお話をさせていただいた。

私は、島根県江津市の市民大学「GO▶︎つくる大学」で、「数学学」の講座を2回ほどさせていただいて、
「数学の魅力をどうやったら多くの人に知ってもらえるだろうか?」
ということを考えていたのだけど、私のような数学科の落ちこぼれではなく
「数学者だったらどう話すんだろう?」
ということに興味があったからだ。

当日は、台風接近で暴風雨。ずぶ濡れになってなんとかキャンパスに到着。
「なんだか金のかかったキャンパスだなー」と初めて訪れた柏キャンパスを見上げつつ、
「美しい数学の世界」のポスターセッションなどを聞いて回った。

伊藤教授の対称性に着目したお話はとても面白く、自分が江津でお話している内容にも近いことがあり、
「自分の話がそれほど間違ってないな」
という安堵をしつ、 短い時間だったが、2人で数学の魅力はもちろん、
「高校数学が得意な人は数学科目指してはいけないですよね」
と言ったお話をフランクにさせていただいて、勝手に共感をした記憶がある。

そして、今回、書店で、伊藤教授の岩波新書「美しい数学入門」が目に入り、手にとった。
喫茶店、路面電車、自宅と梯子して、1時間半くらいで一気に読み終えた。

 

なぜ、自分は数学科なんかに進学したんだろう?

ということを、実は、時々考える。

人から尋ねられると

  • 好きだったから
  • 大学の進学振り分けの時に、「実験がなくて良いな」と思ったから
  • 紙と鉛筆があればできるから

と答えていたのだけど、今回、この本を読んで、
「あー、そうだったなぁ」
と篤信した(だから、ちょっと記録に残しておこうと思って、ブログを書くことにしたという面もある)

 

まあ、数学は得意な方だったのだけど、今でも、
x3=1
という数式の解の性質を知った時が事件だった。
その事件とは、この単純な三次方程式の解は、当然に三次方程式なので3つあって、その3つは、一番小さいものから順に、ω、ω’、1とすると、
ω、ω'(=ω2)、1=(ω3)
で表すことができるということ、を知ったことだった。
(ちなみに、ω’、ω’2,ω’3も3つの解になる)

この一つの「ω」から全ての解が生成されて、しかも、
ω4
という性格からもわかるように、
ωnもまた、この方程式の解になるのである。

これは、複素平面でいえば、
ω=ei2π/3cos(2π/3)+isin(2π/3)
という形になり、ωをかけることで、半径1の円をグルグル回っていく。

それは、一次変換で言えば同じ回転行列の積で表すことができる。

これが、後々、
群論(3次巡回群)というものであったり、それが群の表現と言われるものだ
ということを知ることになるのだけれど、

「計算ができる」

ということよりも、

「数学の中にひめられた不思議な構造と、その対称性」
「方程式という代数と、幾何の繋がり」

みたいなことを知ってしまったことが衝撃で、
それを、

「あぁ〜、美しいなぁ〜」

と思ったことが、数学というものへの憧れにつながったということに気づく。
今思うと、群論から、リー群やユニタリー群の表現論のようなことを学んでいったのも、ここが基点になっているのかもしれない。
巡回群がU(1)だということを考えると、今更ながら、そういうレールの上に乗っていたんだな、と自分事として納得できる。

さて、この本の最後の方に19世紀の数学者シルベスターの言葉が書かれている。
「音楽は感性の数学であり、数学は理性の音楽である」

「音楽と数学は近いのではないか」
数学科卒でピアニストでもある、ということからの時折尋ねられることがある。
あまり明確ではなかったので、答えを濁すことも多かったのだけど、どうも、
対称性とか、一般化とか、高次元化といった、
法則性から生まれる「美しさ」
というところが実は近いのではないか、この本を読んで、腑に落ちた気がする。

(参考)
ちなみに、この本。少ないページなのだけど、群論の話から表現論、特異点と特異点の解消、マッカイ対応、素粒子論への応用、などの部分が急激に難しくなる。
もう、無理、と思ったら、そこを読み飛ばし最終章に行かれることをおすすめしたい。
最終章は、読みやすい読み物になっている。

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