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2020年12月3日更新 投稿者

林業を考える(第3回)

Salon de ∫u ken #4の古川さんの林業のお話から触発されたお話の第3回目です。

1 これまでのおさらい

過去2回で

  • 「お金」という「秩序」だけで考える習慣が、大切だけど遠い未来のことを見失う傾向を生むこと
  • そしてこの「見失う」ということは、今や未来といった時間に関する問題だけではなく、原発の危険性など、多くの問題の中に実は潜んでいること
  • 森林の問題を考える中で、こうした「見失う」「見えていない」という問題が、見えてくるこということ
  • こうした問題を回避するためには「正確に情報が伝えられていること」が大事なのではないか

というお話をしてきました。

一つ目は、双曲割引
二つ目は、情報の非対称性
と言われます。

どちらも、物事の見え方の問題ですので、「こういうことに惑わされないように」とか「惑わされる傾向がそもそもあるのだ」という視点で、我々が学んでおくべきことなのだと思います。

しかしながら、いくら注意をしていても、人間は惑わされることになります。
それは「わかっていないことは理解ができない」という当たり前のことが前提にあるからです。

英語を知らない人は、英語を聞いても何を言っているかさっぱりわからないはずです。
わからないのは能力の問題ではなく、「わかっていない」「知らないこと」だからです。

ですから、多くの人に対して、惑わされることがないように伝えようとすると、物事を、多くの人がわかる形に「翻訳する」ということが重要になります。それを私は
正確に情報が伝えられていること
と表現しました。

2 正確な情報をどう作るのか

当日の古川さんのお話には、とても興味深い一言がありました。

輸入材の丸太は一本20000円で入荷します。一方、国産材は10000円です。
ですが、どうも輸入材の方が安い、ということになっている。
つまり、丸太から実際の最終製品として利用されるまでの間の中間コストが、国産材の方が高い、ということになります。

なぜ高いのか?
よく調べてみると、決して、誰かが得をしようとしているのではないようだ。だからこそ理由がよくわからないのです、という、古川さんのお話でした。

林業には素人である私でも

  • 中間にある事業者数が複数あって、中間コストが膨れ上がる
  • 国産材と輸入材では、国産材の方が加工賃がかかる
  • 単純に、国産材にかかる事業者が「国産材は高い」ということを理由に、利益を多く確保している(古川さんはこれはないと言われていますが)

など、事実は分かりませんが、いくつかの可能性を並べることはできます。

ここが明確になれば、

  • 私腹を凝らしているのではなく、単純にコストがかかるということなのか
  • そもそも国産材は加工などにコストがかかるのか(で良いのかということはありますが)
  • サプライチェーンに無駄があるのか

など、対策を考えることができます。

しかし、これがわからなければ、「川下」である最終製品の価格を仮に上昇する努力をしたところで、中間組織である「川中」が吸収してしまい、「川上」の国産材の丸太の代金は10000円のままになってしまう、ということも想定されます。

森の保全をするためには、そのための投資ができるように「川上」の価値を上げなければいけません。
つまりは、このサプライチェーンの見える化がとても大切だということになります。

実は、農業でも水産業でも、このサプライチェーンの見える化は、「トレーサビリティー」と言われて、日本の課題になっています。

トレーサビリティーは、
「安心・安全なもの」を提供したいという生産者の気持ちと
そういう食品を食べたいという消費者の気持ちをつなぐもの
という議論ですが、その行き着くところは

  • 品質を明らかにすること
  • 品質の向上が生産者の出荷額に反映されて、品質向上への新たな投資が生まれること

という、生産者(=川上)にとってもとても重要な政策です。

実際、水産業でトレーサビリティーを徹底したノルウェーのサーモンは、非常に高い品質と安定した価格を実現している、というのは有名な話です。

トレーサビリティーというと、タグをつけて、デジタルでデータ把握、と言った議論にもなりますが、日本には、デジタル化の手前で、「地域をネットワーク化して見える化する」という事例が見られます。

里山資本主義で有名な周防大島。瀬戸内ジャムズ・ガーデンの松嶋匡史さんの取り組みは、周防大島でしか作ることができない、その時期だからこそ、その場所だから得られる完熟の多様な果実などを原材料に高品質なジャムを提供するというモデルでの高付加価値を実現しています。その結果、果樹生産者は、ジュースの原料など低価格での出荷に甘んじていた状況と比較して、高い価格での出荷が可能となりました。
これは、地域のサプライチェーンをネットワーク化し、地域内での少量多品種の取り組みを松嶋さんが実現し、関係者に得られる価値を広く配賦されているからに他なりません。

3 川中とは何ためにあるのか?

ここまで考えてくると、「川中」である、問屋などの「中間組織」はそもそも何のためにあるのか?、という疑問が出てきます。
流通コストを押し上げているのが、中間組織だ、みたいな悪者扱いをしたいというわけではありません。

瀬戸内ジャムズ・ガーデンの事例は、最終生産の製造・販売という機能もありますが、先に述べたとおり、その前段で、果樹生産者からみると生み出された高付加価値を「川上」に配賦する機能を果たしていることがわかります。

同様の事例は他にもあります。ブリ養殖で有名な鹿児島県長島町。ここは、赤土じゃがいもという早生でできる美味しいじゃがいもの産地でもあります。そのリーダーであるエグチベジフルさん。社長の江口輝文さんはとても熱い方です。
長島町は赤土です。なかなか適合する農産物がなく苦労している中、島原半島のじゃがいもがこの赤土に適しているということを見つけ出し、一大産地としての今を築きました。
江口さんは、私に
「我々は、生産が過剰になった時でもしっかり農産物を購入する。そうすることで、農家が持続する。そういう機能を我々は持っていなければいけないと思っている」
と語りました。
こうした産業を継続するためのスタビライザーの機能も中間組織の重要な機能の一つと言えます。

そして、林業。
吉野杉の集積地として有名な奈良県吉野町
ここに阪口製材所があります。
社長の阪口浩司・専務の阪口勝行さんという親子でご案内をいただき、自然乾燥された吉野杉や紅葉樹の大量のストックを拝見しました。
「必要だ、と言われた時に、ありませんとは言いたくない。そのためにはこれだけのストックが必要なのです」
とお二人は信念を持って語ります。
山主が木を切るには売り先がなければいけません。
が、木材の利用は常に一定ではなく、ましてや建築用材となると長さも大きさもマチマチ。
その調整機能を、阪口製材所さんは担われています。
こうした需給調整の機能も、中間組織の重要な機能の一つと言えます。

こうした利益の再配分、リスクをヘッジする、需給調整をする、など、中間組織には本来大切な機能を担わなければいけないのだと考えています。
しかしながら、こうした機能を実現するには、再配分が適切であるかといった透明性や、リスク自体を分散するなどリスクマネジメントや強い信用力、調整を担保できるだけの資本力など、高いコストがかかります。それを、ここで例示させていただいた民間の一企業が、それを背負っている、というところが、実は凄まじいエネルギーだと思います。頭が下がります。

このリスクとコストをうまくヘッジできないだろうか、あるいは、少しでも軽減できないか、というのが課題だということになります。
思いのある経営者が増えることはもちろん必要ですが、もう少し、その裾野を広げていくことはできないものでしょうか。
その辺りは、次回、考えてみたいと思っています。

(参考)
https://www.jams-garden.com/(瀬戸内ジャムズガーデン)
http://eguchivegefuru.com/(エグチベジフル)
https://wood-sakaguchi.jp/(阪口製材所)

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