2025年5月16日更新 投稿者 代表理事:澤 尚幸
北海道の東川町に行って考えたこと
3日間、北海道の東川町を訪れました。
全国の自治体から「これからの自治体はどうあるべきか?」ということを考える行政職員の皆さんのツアーに参加し、アドバイスをさせていただくためでした。
すでに何度も訪問している東川町。
最初の訪問は、2000年(平成12年)の旭岳登山です。
それ以降、訪れるために何かバージョンアップして「ここには何かあるな」と思っていたわけですが、その仕組みをいろいろ教えていただけるようになったのは、ここ5年ほどのことです。
この25年間、基本的なスタンスは変わっていないそうです。
- (平成の大合併はしないから)自立に向けてやれることはやっていこう。ただし、財源の裏付けがあるなら。
- 財源の裏付けがあるなら、財政は基本的にYES
とまあ、こういうある意味シンプルなお話。
一方で、訪れた全国の自治体の皆さんが口々に言われた課題は、総じてこういうものでした。
- 行政の中で、チャレンジを、そして失敗を許してくれない
- 財源があっても、財政が基本的にはNOから入る
素朴に、思ったのが「この差は、なぜ生まれるのか。。。」
皆さんのお話を聞いていると、
「地方自治法に、”最少の経費で最大の効果”って書いてあるんですよ。」
「財政に言われるのは、これですね。」
とのこと。
確かに
と書いてある。
10分ほど、「この法律なんか変だな」と思いながら黙ってじっと考えていました。
この”最少の経費で最大の効果”って、そもそも”リスクテイクの概念が全く入っていないなぁ〜”ということに気づいたのでした。
リスク資本があれば、効果を高めることができますが、資本がなければ、最低のリスク、つまりリスクフリーで効果を出すことになります。
金融の世界では当たり前の話ですが、リスク(σ)を取らないとリターン(μ)は上がりません。
当然ですが、リスクを費用として捉えてしまったら、”最少の経費”になるためには、リスクをゼロにしようとするはずです。
金融で言えば、
「すべてを貯金にしましょう。株式なんか買っちゃダメ!」
ということになります。
そのまま読んでしまうと、「チャレンジしちゃダメ」と読めるわけですね。
改めて、リスクテイクとリスクマネジメントという視点で、東川町と他の自治体を比較してみると
東川町は、
- イニシャルの財源だけでなくて、長期的なランニングの財源もしっかり考えている。
- その上で、交付税などの今後の変化(下振れ)の可能性もあるので減債基金を計画的に積み立てている。
ということがわかりました。
金融の視点で考えれば、
- 経済価値>0になるように計画する
- それでも、収入が減ることは想定できるので、準備金を積んでおく
ということになりますし、準備金を資本の一部と捉えれば、その資本を適切に配賦し、新たな投資(=リスクを取ること)を進めることも可能になります。
「長期的に財政の目線で、経済価値>0になるように、つまり、財源の手当ができているチャレンジをする」ということでずいぶんヘッジされているのだと思いますが、
チャレンジするということを始めて25年近くが経過しているからこそ、
「取ってよいリスクと取ってはいけないリスクについての経験値が得られている」
ということ、そして、さらには、
「経済価値>0にならないかも、というリスクには準備金を積んで、資本を強化して対応する」
ということまで、経験的に東川町は会得してしまっている、だからこそ、
「失敗してもいいからやりましょう。でも、財源は短期的にも長期的にも、しっかりと意識して」
ということになっているということが理解できました。
これを、改めて他の自治体と比較すると
「チャレンジしたい、失敗を許してくれない」
を変えていくためには、財政に、財務企画的な思考が入っていないとダメなんだろうな、ということに気づきます。
以前から、自治体にも、CFOの機能が必要なのではないか、ということをずっと感じてきました。
東川町には明示的にCFOが存在するのかはわかりませんが、仕組みとしての”それ”が実現できているということになるのではないかと思います。
一方で、自治体の方々とお話をすると、ハコモノの保守費でアップアップとか、住民サービスを拡大しすぎて将来が不安、といった話をお聞きすることが少なくありません。
これは、財務企画が全く機能していなかった、と吐露しているようなものですね。
今回のツアーは、どちらかというと、住民コミュニティの活性化についての相互の学びがポイントになっていたものだったのですが、私自身は、行政における財務企画機能の重要性、みたいなところにフォーカスできて、かつ、東川町を他の自治体の比較の中で、”解剖する “こともできて、非常に学びが深いものとなりました。