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2025年6月22日更新 投稿者

移動教室に来て感じたこと

今回の26日間のヨーロッパの旅。
後半のメインは、ローマ在住の多木陽介さんにコーディネートいただいた移動教室へ参加することでした。

「多木さんとのご縁」が生まれるまでには、長い長い人が人をつなぐストーリーがあります。
個別に名前を掲げるとご迷惑になるかもしれない方も含まれますので、詳細はここでは差し控えますが、30年近い年数をかけて、ざっと数えると8名の人がご縁を繋いでくださった結果です。まさか山登りの趣味が、こういう流れの源流だったのか、と思うと、何が幸いするかわからない、ということにも気づきます。
そのお一人には、長崎県小浜温泉でまちづくりをされていたデザイナーの故城谷耕生さんが含まれます。
亡くなる半年前にお会いする機会をいただきました。
それは今回のツアーへの参加を促してくれた、オフィスキャンプ東吉野の坂本大祐さんが繋いでくださったご縁でもあります。

小浜温泉で城谷さんが語った
「アーティストとデザイナーは違う」
この言葉に今回の移動教室での体験が凝縮されていたのだと思います。

そして、今回の移動教室のツアーは、LIVE DESIGN Schoolの企画の端っこに載せてもらったという、とてもありがたいものでした。
デザインの世界に疎い私が、地域のデザインのプロフェッショナルの方々とつながる機会にもなりました。

移動教室で学ぶことは、プロジェッタツィオーネ、控えめな創造力です。
控えめな創造力とは何か?
多木さんの著書をお読みいただくのが一番のように思います。

多木陽介「プロジェッティスタの控えめな創造力」慶應義塾大学出版会

そして、その上で、本当に興味が湧いてくれば、移動教室に参加いただくのが一番だと思います。

この参加するのが良い、と気づいたことが、もしかすると、いちばん感じたことなのかもしれません。

とはいえ、少しだけ、自分なりに感じたことを書いておきたいと思います。

最近、お話しをするときにテーマにしていることがいくつかあります。
そして、これは、私自身の仕事を進めるときのポリシーでもあります。

  1. (数学やデジタルに基づくデータからの)エビデンスは非常に大事だが、それは座標軸を示してくれるのであって、最後の大切な一つを選ぶのは直観。大事なのは直観を磨くこと。(逆に直観だけだと、座標軸もなくて五里夢中になるので、非常に効率が悪いし、ミスジャッジも増える)
  2. 直観は、直感とは違う。直観は過去の経験の積み上げから生まれるスキルの塊のようなもの。(人間が経験で得るものなので、デジタルデータからは得られない。AI時代に多分、最後まで人間が大事にできるものではないか)
  3. 水は高いところから低いところに流れる。それを逆にしようとすると、どうしても無理が起こる。なるべく、自然な流れに即した対応をした方が長続きするし、コストも安い。
  4. 問いを立てることはとても大事だが、正しい問いを得るためには、どれだけしっかりと物事を観ることができるか、が大切。(ぼんやり「見る」のではなく、俯瞰的に深く「観る」ことが大切)

例えば、勉強したくない人に勉強しなさい、っていうのは、3に反します。
勉強をしたくなったら勉強をすればいい。
大事なのは、勉強をしたくなるような環境が創れるか、ということなのだというふうに考えるということです。

一方で、地方創生の仕事をするときには、今後数十年の人口の減少の状況や高齢化率の状況を最初にお話しすることが常です。これは1をイメージしてもらうためにやっています。

今回、26日間もヨーロッパに行ったのは、日本ではない別の座標軸や直観を得たいということでした。データ的な調査もしましたが、多くはヨーロッパの方々から話を聴くこと、長く在住している日本人を通じて聴くこと、それが目的でした。

移動教室は、その総仕上げのような濃密な1週間だったのですが、上記の1〜4が間違っていなかったということを自分自身が納得するきっかけになりました。

多木さんがコーディネートしてくださった講師の皆さん

  • ムナーリメソッドのシルヴァーナさん
  • 障がいのある人々の表現をデザインを使って価値を高めていた、ラボラトリア・ザンザーラのジャンルカさん
  • プロジェッティスタの思想を形にされている建築家のカヴァリアさんと、そのご家族
  • 石や自然を通じて、実はコモンズとは?を教えてくれた、トリノ工科大学のボッコ先生
  • 財政破綻に直面したアレッサンドリアの地区の家をハンドリングされているファビオさん、薬物依存対策施設のDrop inを運営されていたフェデリコさん、     などなど

対象は教育、建築、障害支援、地域づくりと多岐にわたりましたが、全て、1〜4につながっていたように思います。

場所も、ヴォゲーラ郊外、トリノ、キウゼッラ渓谷、アレッサンドリアと移動しました。(だから移動教室ですね)

ヴォゲーラ郊外にあるシルヴァーナさんの教育農場への道(ローマ時代から続く道だそうです)

トリノの建築家カヴァリアさんのスタジオにて

無理をするのではなく、自然や人々に抗わない方法で、自分が関与することでさらに良い方法に導いていく、それが、控えめな創造力だ

と私は今、理解をしています。日本国内はもとより、イタリアにも、同じ感覚で、かつもっと人生の先輩が沢山いることがわかったことが、自分の自信にもつながりました。
シルヴァーナさんは実験をすることが大事だということを何度も話されていました。トライすると言ってもいいし、実験して「経験すること」ということかもしれません。
「スマホを使うのは、このワークショップの間はやめましょう」
とも言いました。
久しぶりに、メモ帳にメモを取りました。

カヴァリアスタジオでの自分のメモ(水は高いところから低いところへ流れる、と咄嗟にメモってます)

どれだけデジタルが進化しても、やっぱりまだ、紙と鉛筆というデバイスには表現という意味では勝てないように思います。

そして、カヴァリアさんのこの一言も名言でした。

私の話は、知恵があることを聞かないと気づかないものです。
本当に奉仕する建築家とはそういいものだと思います。

控えめな創造力を持つ人は、「これは俺がやった」などと言う必要はないと言うことなのでしょう。この自然に自然なものが広がっていく感覚というのも大切なのだなと感じました。

移動教室に限らず、何かに興味を持っていただいたら、やはり経験していただく、それがいちばん大切なのだと思います。
情報から得られるものは経験と比較すれば、数段低い、そういうことなのでしょう


 

移動教室の内容は、移動教室(公益財団法人ハイライフ研究所)に詳細な記述があります。今回の移動教室もほぼこれに則したものになっていました。

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